障害基礎年金1級または2級を受給中の人は、国民年金保険料が法律で免除されます(法定免除)。申請不要で自動処理され、保険料の納付がストップします。ただし、免除期間は将来の老齢基礎年金が満額の半分で計算されるため、老後の年金が減るというデメリットがあります。10年以内なら追納が可能ですが、追納すべきかどうかは寿命・障害継続性・家計の3つの軸で慎重に判断する必要があります。
この記事で分かること
- 法定免除の仕組み(対象者・手続き・自動適用)
- 免除期間の老齢年金計算(満額の半分扱い)
- 追納の制度(10年以内・1ヶ月約16,000円)
- 追納するかどうかの3つの判断軸
- 「払い続ける」選択肢(法定免除中も納付可能)
- よくある勘違い
法定免除とは|基本の仕組み
国民年金保険料の法定免除は、国民年金法第89条で定められた制度で、特定の要件に該当する人の保険料納付を法律で免除するものです。「申請して認められれば免除」ではなく、「要件に該当した瞬間から法律上当然に免除される」という性質を持ちます。
対象者
次のいずれかに該当する人。第1、障害基礎年金または障害厚生年金の受給権者で、障害等級1・2級に該当する人。第2、生活保護法による生活扶助を受給している人。第3、ハンセン病療養所等の国立施設で療養している人。
障害厚生年金3級の受給者は法定免除の対象外です。3級の場合、申請免除(所得に応じて全額免除・3/4免除・半額免除・1/4免除)の対象になります。
手続きと自動適用
法定免除は原則として手続き不要で、障害基礎年金の受給開始と同時に自動処理されます。日本年金機構から「国民年金保険料免除等該当通知書」が郵送され、これで免除が開始されたことを確認できます。
ただし、20歳前の傷病による障害基礎年金は所得制限があるため、所得超過で年金が支給停止になっている期間は、法定免除の対象から外れることがあります。この場合、申請免除に切り替える必要があります。
引っ越しで住所変更があった場合、年金事務所への届け出は必要ですが、法定免除自体は自動継続されます。
免除期間の老齢基礎年金計算
法定免除期間は、将来の老齢基礎年金の計算で「保険料を半分払った」扱いになります。具体的には、満額の50%(2026年度で年816,000円÷2=年408,000円相当)の年金額が、その期間分として支給される計算です。
具体的なシミュレーション
例1、20歳から60歳までの40年間、ずっと法定免除を受けた場合。将来の老齢基礎年金は満額の半分、年約408,000円(月約34,000円)になります。
例2、20歳から30歳までは通常納付、30歳から60歳までの30年間は法定免除を受けた場合。納付10年分(満額の25%)+免除30年分(満額の37.5%相当)=満額の62.5%、年約510,000円(月約42,500円)になります。
例3、20歳から60歳までの全期間で半分は通常納付、半分は法定免除。納付20年分(満額の50%)+免除20年分(満額の25%相当)=満額の75%、年約612,000円(月約51,000円)になります。
追納制度の詳細
追納は、免除期間の保険料を10年以内なら後から納めることができる制度です。納めれば将来の老齢基礎年金が満額に近づきます。
追納できる期間
過去10年以内の免除期間が対象。たとえば2026年6月時点では、2016年6月以降の免除期間を追納できます。10年を超えた古い期間は追納不可です。
追納額
1ヶ月あたり約16,000〜17,000円(年により若干変動)。10年分すべてを追納すると、約190〜200万円になります。一括納付・分割納付のいずれも可能です。
追納の経過利息
古い期間ほど経過年数による加算金がかかります。たとえば2016年免除分を2026年に追納する場合、2016年当時の保険料に経過年分の加算が乗ります。早めに追納するほど、加算金が少なく済みます。
追納するべきか、3つの判断軸
判断軸1、障害年金の継続性
障害が固定で一生続く見込みなら、老後も障害年金が継続するため、老齢年金の上乗せは必須ではありません。65歳以降は障害基礎年金か老齢基礎年金のどちらか有利な方を受給する仕組みのため、障害基礎年金が続く限り老齢基礎年金が増えても活かせない場合があります。
一方、障害が回復して将来年金が止まる可能性があるなら、追納で老後の備えを厚くする価値があります。精神障害で症状の波があるケース、難病で治療法の進展による回復可能性があるケースは、追納を検討する価値があります。
判断軸2、家計の余裕
追納は1月分あたり約16,000円。10年間全部追納すると約190万円かかります。生活を圧迫してまで追納する必要はありません。「余裕資金があれば部分追納」が現実的な選択です。
たとえば、貯金100万円のうち30万円を追納に充てて、約20ヶ月分を取り戻す、というアプローチがあります。一気に全部追納せず、無理のない範囲で進めます。
判断軸3、寿命と元が取れる年齢
追納で増える老齢年金は、約10年で元が取れる計算です。65歳から受給開始して75歳までに元を取る計算になります。
75歳以上まで元気でいる見込み(平均寿命的に女性は80歳超、男性は約81歳)なら、追納がプラスになります。健康状態により早世の可能性が高いなら、追納より生活費に回す方が合理的です。
「払い続ける」選択肢
法定免除中でも、自分の意思で保険料を払い続ける選択ができます。年金事務所に「法定免除中だが保険料を払いたい」と申し出れば、納付書を発行してもらえます。
これは「将来の老齢年金を満額にしたい」場合の選択肢で、法定免除中の保険料納付分は通常の納付と同じ扱いになります。家計に余裕があり、長生きする見込みがある人にとって有利な選択です。
ただし、月16,000円を毎月払い続けるのは結構な負担です。一度払うと取り戻せない(法定免除に戻る選択は可能だが、払った分は返ってこない)ため、慎重に判断します。
よくある勘違い
勘違い1、「法定免除されると障害年金が減る」
これは間違いです。法定免除は国民年金保険料の話で、障害年金の額には一切影響しません。障害基礎年金1級・2級の額は法令で決まっており、保険料免除とは無関係です。
勘違い2、「法定免除中は何もしなくていい」
原則そうですが、20歳前傷病で所得制限による支給停止になった場合は、申請免除への切り替えが必要です。所得状況の変化に応じて、年金事務所と確認することが重要。
勘違い3、「将来必ず老齢年金より障害年金が有利」
65歳以降は、障害基礎年金か老齢基礎年金のどちらか有利な方を受給します。老齢基礎年金が満額の60%以上になれば、障害基礎年金2級(満額)より有利になることがあります。長期的な試算が必要です。
勘違い4、「法定免除中の期間も老齢年金にカウントされない」
これも間違い。法定免除期間は受給資格期間(10年以上の納付・免除期間で老齢年金の受給権が発生)にはカウントされます。年金額計算では半分扱いですが、受給資格としては有効です。
運営者の経験談
私は20歳前傷病による障害基礎年金1級を受給しており、現在も法定免除中です。20代の頃、追納すべきかを年金事務所で相談しました。
結論として、私は追納していません。理由は3つ。第1、障害が固定で生涯続く見込みのため、老齢年金より障害年金が継続する可能性が高い。第2、家計的に月16,000円の追加負担は厳しい。第3、若いうちに追納するより、その分を生活基盤(住宅・健康・教育)に投資した方がリターンが大きい。
ただし、これは私の状況での判断です。配偶者の所得が高くて家計に余裕がある人、障害回復の可能性がある人なら、追納はプラスになります。「自分の状況での損益」を計算した上で判断することが重要です。
よくある質問FAQ
Q1:配偶者の保険料はどうなりますか
本人が法定免除でも、配偶者の保険料は別個に計算されます。配偶者が国民年金第3号被保険者(専業主婦等)なら自動的に免除、第1号被保険者(自営業等)なら独自に申請免除が必要です。
Q2:免除期間中に企業に就職して厚生年金加入したら
厚生年金加入期間は通常通り計算されます。法定免除は厚生年金には影響しません。退職して国民年金に戻ったら、再び法定免除が適用されます。
Q3:法定免除を解除する手続きはありますか
障害等級が3級以下になって法定免除の要件を満たさなくなった場合、自動的に解除されます。「自分の意思で解除」する仕組みはありませんが、「保険料を払う」選択は可能(前述の通り)。
Q4:追納の納付書はどう取り寄せますか
年金事務所に電話で「追納したい」と伝えれば、過去10年分の追納可能額が記載された納付書を郵送してもらえます。窓口での受け取りも可能です。
Q5:法定免除期間中に死亡した場合、遺族年金は
遺族年金の受給資格には「保険料納付期間+免除期間が一定以上」の要件があります。法定免除期間も受給資格期間にカウントされるため、要件を満たしていれば遺族基礎年金が支給されます。
手続き窓口
窓口は、お住まいの地域の年金事務所(日本年金機構)。電話番号は「ねんきんダイヤル」(0570-05-1165)、または年金事務所一覧から検索可能。法定免除の確認、追納の納付書発行、相談などすべてに対応してくれます。
具体的な対面相談を希望する場合は、最寄りの年金事務所に予約電話を入れます。混雑を避けるため、平日午前中の早い時間帯がおすすめです。